ウクライナのIT市場は高い成長力を有し、イノベーションや優秀な人材を多く輩出するなど、グローバルなIT市場の中でも存在感を発揮しています。
2023年に入っても、ビジネス環境や政府の手厚い支援を受け、ITセクターは引き続き成長しています。
IT産業の成長とその要因
NBUのレポートによれば、ウクライナのIT企業による2022年の外貨収入は73.4億ドルでした。輸出額は、ロシアによる軍事侵攻前の2021年と比較しても、5.8%ほど増加しました。
他の輸出型産業では2021年度比でマイナスとなっていることを踏まえると、大変良好な結果であると言えます。
好業績を裏付けるかのように、ITエンジニアの数も過去最高の30万人に達しています。
ウクライナのIT企業が業績を拡大し続ける背景の一つとして、高いスキルを持つ人材が多く在籍することが挙げられます。
エンジニア、ディベロッパー、データサイエンティストなどのIT専門家を多く有すウクライナ。国際的に高い評価を得ている人材も少なくありません。
創造性、技術への理解、適応性を買われ、世界的な大手IT企業も多くのウクライナ出身エンジニアを採用しています。
また、数多くのイノベーションが生まれたことも、IT企業の成長に寄与しています。
人工知能やブロックチェーン、IoTなどを活用した事業を手掛けるスタートアップやIT企業は多く、ファイナンス、物流、ヘルスケア、農業といった国内外の様々な業界で最先端のソリューションを提供しています。
ウクライナ政府によるIT産業への支援も、IT企業の成長に大きな役割を担ってきました。IT産業のポテンシャルを理解し、スタートアップの起業や、イノベーションの促進、海外投資家を誘致するために、様々な取り組みや政策を実施してきました。
手続きの簡素化や、デジタルインフラの構築など、ビジネスの成長と技術の進歩を助長する環境を作り出しています。
IT産業への海外投資はここ数年で増加しており、外資系企業がR&Dセンターやオフィスをウクライナに設立しています。こうした投資は、経済成長に寄与するだけでなく、国内外の技術や知見が集約され、海外企業との更なる協働につながります。
欧州、北米、アジア諸国の企業との協働により、IT技術分野でのウクライナの地位は確実に向上しています。
2022年、ウクライナのサービス輸出総額の44%はIT産業が占めていました。しかし、2023年1月時点での収益額は前月比でマイナス2.23億ドルと大きく減少しました。
悲観的なシナリオでは、2023年度はIT産業の成長は見込めないどころか、縮小する可能性も示されました。20年以上継続して成長してきたIT産業ですが、初めて衰退の危機に直面しています。
一方で、楽観的なシナリオでは、6%の成長率を予想する専門家もいます。全ては、ロシアによる軍事侵攻がどれだけ早く終わるかにかかっています。
続いての項目では、ウクライナのIT産業が現在どのように発展しているかを見ていきます。
IT産業の今後の発展性について
ウクライナが今後注力していこうと計画している分野の一つは、ITセキュリティです。以前より取り組みが見られた分野ですが、軍事侵攻により当該分野の重要性が強調されました。
現代の詐欺師は、資金獲得のために都度新たな手法を生み出しており、不正アクセス対策を常にアップデートする必要があります。ITセキュリティ分野では継続的な進化が求められているのです。
クラウドシステムも、今後重要な分野となります。たった数年前までは、ハードウェアを中心とした開発を手掛ける企業が主流でしたが、今ではクラウド上に情報やシステムを保存したい企業が大半で、今後もこの潮流は続くでしょう。
また、近い将来重要性が高まり、収益が見込まれる分野として、知的財産権を含むシステムやサービスの開発が挙げられます。
さらに、2023年のウクライナIT産業のトレンドの一つは、軍事技術の開発です。特に、無人航空機の開発は急ピッチで進んでおり、既に承認済みで戦場で活用されている技術もあります。
今後、ますます軍事技術の発展が重要となるでしょう。スタートアップは、軍事関連の開発事業の場合、ウクライナのスタートアップファンドより最大3.5万ドルの助成を受けることが可能です。
特に、防御、サイバーセキュリティ、インフラ再構築、ヘルスケア、教育といった分野に関しては、国からの助成金を受けることもできます。
メディアポータルBabelは、デジタル変革担当大臣のMykhailo Fedorovの言葉を引用して、同省は近い将来、イノベーション開発基金に基づいて軍事技術の集積拠点を立ち上げると報じています。
同大臣によると、昨年ウクライナは軍事技術分野へのベンチャーキャピタルによる投資を最大10億ドル集めることができたといいます。
出典
