不足するIT人材を補う中東欧パワー:ウクライナ発ソフトウェア開発サービス会社、CHIグループの代表に聞く

IT

世界のDX推進が進む中で加速する日本のIT人材不足。

日本政府としても対策に乗り出しており、ポーランドを含む中欧諸国では経産省主催のIT人材カンファレンスやジョブフェアが2022年、2023年と2年連続で開催されています。

日本経済の今後の成長の鍵となる海外人材との協業を見据え、2022年に神戸市に日本支社を構えたCHIソフトウェア株式会社の代表Volodymyr氏にお話を伺いました。

CHIソフトウェア株式会社の代表Volodymyr氏

Q1. 17年の歴史をもつCHIソフトウェア社ですが、会社の設立経緯について教えてください。

弊社は元々City Hall Illustratios (CHI)という名の小さなウェブスタジオとしてスタートしました。設立当時は10人メンバーでデジタルエージェンシーとして、UI/UXデザインとフロントエンド開発を地元企業相手に行う企業でした。

私自身はIT分野の専門教育は受けておらず、経済学を大学で修めています。
設立から数年の内にビジネスが拡大し、CHI Softwareというソフトウェアの開発会社として進化してきました。
今思い返すと会社設立からの全ての瞬間を愛おしく思っています。

Q2. 貴社の最もイノベイティブな部分、強みは何ですか?

結論からいうと、私たちの最大の強みは「人」です。
私ひとりの力で、チームのエンジニアが創り上げる素晴らしいアプリやプラットフォームを構築することはできません。
エンジニア一人一人の創造性は、私が常に大切に思い信じているものです。

「人」の力を保持するために弊社で行っている取り組みが、CHIアカデミーです。
CHIアカデミーはまさに、世界を変えることができる新しい才能を育む、教育システムです。
ユニークな機能の組み合わせ、洗練されたアルゴリズムが今世界を変えており、そういった流れは今後さらに大きなものになると確信しています。

私たちの「最もイノベイティブな部分」を挙げるとすると、非常に強力なAI開発チームを有していることです。
しかし、その他にもIoTとSAPの応用も得意な分野であり、弊社のエンジニアは10年前にIoTの組込みシステムの構築を開始し、様々なツールのプロジェクトを行ってきました。

Q3. 2022年の日本支社設立に至った経緯を教えてください。

弊社ではアメリカ、ヨーロッパ、イスラエルから主な受注を受けています。
個人的には、日本はIT人材不足に苦しんでいて、常に高い需要があると感じていました。
日本の顧客にアプローチしようと考えたこともありました。
しかし、日本市場での経験がない状態で、日本企業への営業活動をすることは非常に困難でした。
1番の困難はまさに、1社目のクライアント獲得であったと思います。

日本の企業との一定期間の協業の後に、日本で法人を設立することの必要性を感じました。
言ってみれば、日本の銀行口座がないような企業に、日本市場で良いビジネスはできないのです。

ちょうどそんなことを考えていた折に、CHIソフトウェアはウクライナIT協会のメンバーになりました。
ウクライナのビジネスと関西の地元企業との協力に特化したウェブセミナーに参加した際、神戸市の方が、東京ではなく神戸で会社を設立することを提案してくださいました。
神戸は外資系企業にとって日本で最もビジネスの開かれた都市であるということも聞き、神戸市での支社開設を決めました。

Q4. 日本市場の面白さは何ですか?

日本市場がテクノロジーの分野で長い間イノベーションの先端を走ってきたのは旧知の事実ですし、現在も最先端技術の開発の拠点であり続けていると感じています。
日本は常にロボティクス、電子工学、自動車技術のパイオニアとして業界を牽引してきました。

このような絶え間ないイノベーションへの意欲が、新技術の採用につながることが多い日本のIT市場を魅力的なものにしています。

日本はハードウェアと製造能力で有名です。
ソニー、パナソニック、東芝のような企業は、コンシューマー・エレクトロニクスやその他のハードウェア分野で世界的な影響力を持っています。
ハードウェアにおけるこのような専門知識は、ソフトウェアや新興テクノロジーとの非常に興味深い協業に繋がる可能性を秘めています。

現在、老舗企業も含め、日本企業はデジタルトランスフォーメーションへの投資を増やしています。
これには、グローバル市場で競争力を維持するためのITインフラの近代化、クラウドサービスの採用、データ分析の活用などが含まれており、日本企業がデジタル技術を取り入れるペースは非常に早く、CHIソフトウェアが日本企業にとって信頼できるITパートナーとなりうるのは、この分野であると確信しています。

Q5. 弊社では日本とヨーロッパの架け橋となる企業として、ビジネス文化の違いに非常に興味があります。日本とウクライナでのビジネス文化の違い、難しさを感じたことがありますか?

正直に申し上げて、多くの難しさと直面をしてきたように感じています。

最も大きな壁はもちろん言語の問題でしょう。
CHIソフトウェアが日本市場に特化した部署を開設したのも、言語の壁が大きな理由の一つでした。
日本語話者のセールスマネージャー、通訳、日本語母語話者のブリッジシステムエンジニアをチームに迎えています。

またその他にもマインドセットの違いもあります。
通訳が正しく訳してくれていても、日本人のビジネス文化の違いや日々の生活の違いから日本人の事を理解するのが難しいと感じることもあります。
日々のやり取りや契約書、プロジェクトの進め方等も「日本流」に変える必要がありました。

セキュリティ関連の基準順守も一つの例です。

Q6. 日本の方から、ポーランドとウクライナの類似点に関しての質問を多く受けます。ポーランドとウクライナのビジネス文化の違いに関してコメントをいただけますか?

2022年2月に始まったウクライナでの戦争がきっかけで、隣国について考える機会が度々ありました。

ウクライナとポーランドは、地理的に近いこと、歴史が絡み合っていることなどから、共通点があります。
共産主義から民主主義への移行を経験し、農業セクターが強いことも共通点でしょう。

違いとしては、ポーランドのビジネス文化は、欧米のビジネス慣習の影響を強く受けており、形式的で構造的に感じます。
会議は通常、明確な議題と目標を持って綿密に計画されて始まることが多いです。

対照的に、ウクライナのビジネス文化は個人的な関係を築くことに重点を置いています。
ビジネス上の話し合いは非公式でフレンドリーな会話から始まるのが普通で、ビジネス上の問題に飛び込む前に信頼関係を築くことができます。
ウクライナの会議はリラックスしているように見えるかもしれませんが、ここではつながりを築くことが重要です。

Q7. Forbes Ukraineによると、貴社は”グローバルアウトソーシング100”にランクインしていますね。貴社以外にもウクライナから17社がランキングに入っていますが、ウクライナ企業をトップクラスに創り上げている要素は何でしょうか。

ウクライナの一番の強みは何といっても人材です。

様々な種類のスキルに対応できる多くのIT人材を有しており、アカデミーや勉強会等の機会も豊富にあります。

もうひとつの大きな要因は、もちろんコストでしょう。
品質に妥協することなく、欧米諸国よりも安価なサービスを提供することが可能です。
また地理的な位置とタイムゾーンも重要な要因です。
特にヨーロッパのパートナーとの共同作業には適した地理関係に位置してます。

私の回答は、典型的なものに聞こえるかもしれません。

ただ、ウクライナが独立のために戦っている間、エンジニアは時として最もストレスの多い環境で働かなければいけません。
そして、ただ「働く」のではなく、同じように素晴らしい品質を提供しています。
信じられないことだと思いますし、ウクライナ人同胞の勇気には本当に敬服します。

Q8. 最後にVolodymyrさん自身について教えてください。5人のお子さんがいらっしゃるとのことですが、お子さんにもIT関連の職業について欲しいと願いますか?

子育てに関して、「どのような努力をして育てても子どもは自分自身に似てしまうものだ」という言葉を耳にしたことがあります。
子どもに対しては、健康で、品行方正で、目的意識を持ち、十分な教育を受け、常に目の前のチャンスを生かす人間であってほしいと願っています。
子どもの将来に関しては、私が決めることではありませんし、彼ら自身で判断をし、夢を持ってチャレンジをしてほしいと思います。

私自身の事をお話しすると、仕事の外ではランニングとギターを日常的に楽しんでいます。
毎日平均8~9km走ることを習慣としており、毎週100km程度を目標としています。私とって趣味は頭の中をリセットするために非常に重要な役割を果たしています。
仕事と私生活のバランスを保つことに関しては、「目の前のことを全て行うことが不可能である」と信じているのは脳だけだと信じています。
自分の過去の時間は毎秒増えており、その分将来の時間が減っています。
一瞬一瞬を大切にし、何事も素早い決断を下すように心がけています。
健康と安全があってこその幸せな生活であり、常にバランスに関しては保つことを忘れないようにしています。

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