ポーランドの憲法裁判所は22日(木)、胎児の不可逆的な障がいや病を理由とする人工妊娠中絶を違憲とする判決を下した。この判決が法制化されれば、ポーランドにおける人工妊娠中絶がほぼ全面的に禁止されることとなるため、連日各地で抗議デモが行われている。
ポーランドはキリスト教カトリックの影響が強く、既に存在する中絶関連法は他のEU加盟国と比較しても非常に厳格な水準にある。現行法のもとでは、ポーランド国内で人工妊娠中絶を行うことが出来るのは ①強姦や近親相姦による妊娠の場合、②母体に命の危険がある場合、③胎児に不可逆的な障がいや生命を脅かす病気がある場合のいずれかに当てはまる場合のみである。このうち、国内で行われる中絶手術の約98%を占めているのが「胎児に不可逆的な障がいや生命を脅かす病気がある場合」であるため、今回の憲法裁の判断は、ポーランドにおける中絶手術を実質的に禁止するというものである。
ポーランド国内で中絶手術を受ける女性は年間1,000人程であるが、その他にも年間8~12万人程のポーランド人女性が国外で中絶手術を受けていると推定されている。海外で中絶手術を受けるための旅行を手配をする専門の会社もあるほどだ。
「すべての公的機関、特に立法府は、すべての人命の法的保護を確保する義務を負っている」「人命を保護するための十分な基盤を作らなければ、人間の尊厳を守るという話はあり得ない」と裁判所は指摘した。
ポーランドでは現在、新型コロナウイルスの新規感染者が1万人を超える日もあるなど、油断出来ない状況が続いている。24日(土)からは国内全域が赤ゾーンに指定されており、5人以上の集会が禁止されているなか、首都ワルシャワをはじめポズナン、ウッチ、ヴロツワフ、クラクフなど国内各地で連日抗議デモが行われている。週末には女性や若者を中心に数千人規模のデモが行われた地域や、教会での礼拝中に抗議活動が起こったケースもあった。
人工妊娠中絶の規制強化は、伝統的なカトリックの価値観を重視する保守系与党「法と正義(PiS)」が数年間にわたり積極的に推進してきた。憲法裁判所の判事のうち、大部分が与党に任命されていることから、「法の支配」の原則が脅かされているとの声も以前から上がっている。
【ポーランド現地の様子】
これまでも、政府の決定に対する抗議デモ等がポーランドの都市部で行われることは珍しくなかった。しかし今回のデモの規模と人々の真剣度合いは、これまでと一線を画しているように見受けられる。
首都ワルシャワだけでなく、クラクフや他の都市でもデモの参加者が道を埋め尽くし、通行人との間で論争が起こる場面も度々見受けられる。今週末にはワルシャワにて、抗議者による大規模な集会も予定されているとのことだ。
SNS上では、今回の判決に抗議する投稿を、タグ付け機能を利用してチェーン形式で広める動きも広がりをみせている。
公式に抗議声明を出している大学や美術館、判決に抗議をして一斉休業しているカフェ・会社等も少なくない。今週から全授業が休講になっている大学も複数ある。
参考:
https://www.thefirstnews.com/article/top-courts-rules-abortion-in-case-of-damaged-foetus-unconstitutional-16976
https://www.thefirstnews.com/article/protests-against-new-abortion-laws-17013
https://www.bbc.com/news/world-europe-54669257
https://wawainfo.pl/protest-kobiet-231020-ao-wyrok-tk